ミニチュア特撮の世界に行く前に、まずは現実世界の熊本の街を見ておきましょうか。

路面電車が走り、アーケード街が伸びているのが熊本市街地の特徴であります。

そんな熊本の街を見下ろすように建っているのが、熊本城であります。

室町時代に出田秀信が千葉城として築城したものを戦国時代に加藤清正が大幅増改築を行い、現在の熊本城の形となった訳であります。明治時代に起きた西南戦争では政府軍の拠点となり籠城戦で見事西郷軍を退け、難攻不落の要塞っぷりを発揮したりもしました。

現代では熊本市の文化財として観光名所にもなり1994年にはゴジラが襲うなどしましたが、2016年の熊本地震で被災した際に天守閣の屋根瓦をはじめ石垣等も崩壊しており、天守修復に3年、全体の完全修復には20年かかるとも言われております。

現状では復旧が済んでいない場所は安全のため立ち入り禁止となっています。
一日も早い復旧を祈るばかりでありますね……。
さて、そこで今回の「熊
本城×特撮美術 天守再現プロジェクト展」でございます。
在りし日の、或いは近い将来の熊本城の姿を、特撮の力で再現した訳ですよ!

特撮に於けるミニチュアワークというのはいわばデフォルメであり、その真髄は「
それっぽく見せる事」。なので、現実世界の熊本の街並みがそのまんま縮尺模型として再現されている訳ではありません。あくまでもイメージが優先される世界なんですね。
ですが、その縮尺世界はレンズを通してホンモノに成るのであります。縮尺の箱庭をホンモノにするのは、細部を造りこんだりウェザリングをかけたり、或いはカメラアングルであったり……。その術が、「
特殊撮影」と呼ばれる技術なのでございます。
ぶっちゃけた話、生で見ただけでは特撮のミニチュアは「
本物」には見えないんですよね。しかし今回写真を確認してみて「
うわっ、本物みたいだ!」と感じた写真が結構あった訳でして、やはり特撮というのはカメラを通して初めて完成するのだな、という事を実感したところでございます。

さてさて今回のミニチュアセットのコンセプトとしては、どうも「
熊本城のある日常風景」というのがあるようでして、ミニチュアの世界観の中で暮らす人々の生活を感じさせる、そんなセットとなっておりました。
というのも、今回の展示では『
巨神兵東京に現わる』でも使用されていた、人物写真の切り抜きがセット内に大量に配置されていた訳であります。切り抜きの人物一人一人に生活があり、日常が存在する。それを熊本城が暖かく見守っているのだ……という、ストーリーが見えてきそうなセットでしたよ。

「
映像」では無く「
静止画」として撮られる事が前提となっているので、こうした切り抜き人物を効果的に配置する事となったのでしょうね。

アーケード部分には、上で貼った現実世界の熊本のアーケードと同じくらいの人が居ました。

切り抜き人物の一人一人がそれぞれ独自の行動を取っているので、「
生きている」感が出ております。



中にはこんなヒト達も……。

切り抜き人物の中にはご当地キャラだけでは無く大西一史熊本市長や三池特美監督らも混ざっていました(笑)。

また、バックに熊本城が見えないアングルの場所でも、人々の日常が繰り広げられております。






普段の特撮では合成等をしなければならなくなる関係上どうしても「
無人の街」になりがちで、それ故に生活の痕跡を色々と付ける事に特撮スタッフの方々は苦心している訳でありますが、今回の展示では生活の痕跡に加え、実際に人物が居る事で、完全に「
活きている街」になっていたと思うんですよね。
こういうのは、展示会ならではなのでしょうなぁ。

また、街の至る所に猫や犬が居たりして「
生活しているのは人間だけじゃないぞ」という事が示されていたり、

ベランダには洗濯物が干してあったり傘から水が滴っていたりと、色々と芸が細かかったですね。看板にちゃっかりケロロ軍曹とかが居たりで結構遊び心満載でしたし。
あと、看板や立札をよく読んでみると、電話番号が東京のものだったり、何故か他県都市の標語が書かれていたりしてて笑いました。

今回のミニチュアも例によって様々な映画等で使用されたものなので、つまりそういう事なんでしょう(笑)。
遊び心といえば、背景の雲です。どこかで見たようなヒトに見える雲が、あったり無かったり。

さて、今回の展示の本丸とも言える熊本城ですが、ミニチュアセットでは大小天守と宇土櫓が再現されておりました。

この再現性でありますよ。

レーザーで切り出した木製ミニチュアに傷を入れて木目を表現し、その上から塗っていき漆を表現するなど、非常に手のかかった製造法となっております。

今回は展示という事で、普段の特撮での「
画面に映る部分だけを造り込む」ミニチュアでは無く、全方位からの撮影に耐えれるように完全な再現模型となっている、まさにスペシャル仕様のミニチュアなんですね。





各アングルでの映り方や照明も考慮に入れた、計算され尽くした熊本城の天守ミニチュアでありました。
因みに、当記事の写真を見るとかなり広いセットのように錯覚されるかも知れませんが、実際はそんなに広いセットでは無いんですよね。

「
特撮博物館」の時の撮影可能セットよりも大分こじんまりとしたセットでした。
特撮博物館が「
劇場用作品」だとすれば、今回はさながら「
テレビ作品」と言えるのかも知れません(笑)。
故に、セットを「
広く」見せる為の特撮技術がこのセットには使用されています。
そうだね! 「強遠近法」だね!手前に大きめのミニチュアを、奥に小さめのミニチュアをそれぞれ配置してパースをつけるというミニチュアワークによるSFXには必須の技術であります。
単純な縮尺模型では無い、この展示が「
特撮」の名を冠しているのはこれが理由であると言っても過言ではありませんぞ!
そして、照明が夕方から夜になるというライトアップも2時間おきにやっておりました。

夕景、夜景になると風景もまた変わって見えますね。

ライティングによって被写体の表情が変わるのも、特撮の醍醐味のひとつであります。


最後は、熊本城同様修復工事の続く阿蘇神社楼門の20分の1ミニチュアです。



ミニチュアセットの展示以外にも、作業机やメイキングの映像展示、熊本城の歴史に修復工事の進捗情報等が展示されており、更に出口ではNHK熊本による、現在の熊本城を360度カメラで撮影したVR映像が公開されていました。
また、庵野秀明監督や樋口真嗣監督ら特撮に縁のある監督や造形師、漫画家の先生などのサイン色紙も展示されておりました。

そんな感じで、管理人も「
こン中入りてぇ!!」という気持ちになった「
熊本城×特撮美術 天守再現プロジェクト展」。非常に愉しいひと時を過ごす事が出来ました。いや、このミニチュアセットを自然光下で撮れれば最高だったんですが(笑)。上が天井だとどうしてもセットになってしまうんすよねぇ……。
福岡の「
ゴジラ展 大怪獣、創造の軌跡」、佐賀の「
特撮のDNA展 怪獣の匠」に続く熊本の「
熊本城×特撮美術 天守再現プロジェクト展」。
九州界隈でも特撮関連の展示会が熱い広がりを見せている訳であり、これに続く新たな特撮展示会が執り行われると、特撮怪獣ファンの管理人としては喜ばしい限りなんですけれどね。目指せ、特撮博物館の常設!!
「
熊本城×特撮美術 天守再現プロジェクト展」は、2018年3月18日までの開催となっております。
九州界隈の特撮好きは、是非!!
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